マンションや戸建てを売却して利益が出たら、その譲渡所得に対して所得税と住民税がかかります。しかし、条件を満たせば最大3000万円まで譲渡所得から控除できる特例があることをご存知でしょうか。
この3000万円特別控除を活用すれば、売却益が3000万円以下なら税金はゼロ。3000万円を超えても、超過分だけが課税対象となるため、大幅な節税が可能です。ただし、住宅ローン控除との併用不可など注意点もあります。
目次
3000万円特別控除の基本的な仕組み
この控除を適用することで、売却益が3000万円以下なら税金がゼロになり、3000万円を超えても超過分のみが課税対象となります。
譲渡所得税の計算方法
あなたが不動産を売却したときの譲渡所得は「売却価格 – 取得費 – 譲渡費用」で計算します。取得費には土地購入代金、建物建築費、仲介手数料、登記費用、印紙税が含まれます。譲渡費用は売却時の仲介手数料、印紙税、測量費、建物取壊し費用などです。
譲渡所得税の税率は所有期間によって異なります。5年以下の短期譲渡所得は39.63%(所得税30%、住民税9%、復興特別所得税0.63%)、5年超の長期譲渡所得は20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)です。
3000万円特別控除を適用する場合、譲渡所得から3000万円を差し引いた金額に税率を掛けて税額を算出します。
控除適用後の税額シミュレーション
あなたが3000万円で購入した不動産を5000万円で売却し、譲渡費用が300万円かかった場合を計算してみます。
控除なしの場合:
- 譲渡所得:5000万円 – 3000万円 – 300万円 = 1700万円
- 短期譲渡(5年以下):1700万円 × 39.63% = 約674万円
- 長期譲渡(5年超):1700万円 × 20.315% = 約345万円
控除適用後:
- 課税譲渡所得:1700万円 – 3000万円 = 0円(マイナスのため)
- 税額:0円
この例では、3000万円特別控除により短期譲渡で674万円、長期譲渡で345万円の節税効果が得られます。
3000万円特別控除の適用要件
3000万円特別控除を受けるには、複数の条件を満たす必要があります。これらの要件を正確に理解することで、あなたの不動産売却で確実に控除を適用できます。
居住用財産の基本条件
あなたが売却する不動産は「主に居住していた自宅」である必要があります。現在住んでいる自宅はもちろん、転居後でも条件を満たせば対象になります。単身赴任中なら配偶者が居住する家も適用対象です。
別荘や賃貸物件は対象外となります。仮住まいや節税目的で一時的に入居した家も控除を受けられません。国税庁は「生活の本拠」として機能していたかを重視します。
実際の居住実態が審査されます。住民票の移動だけでなく、電気・ガス・水道の使用実績や郵便物の配達先など、生活の痕跡が確認されることもあります。あなたの家族構成や勤務先との距離も判断材料になります。
所有期間と居住期間の要件
所有期間に制限はありませんが、居住をやめた後の売却時期には厳格な期限があります。あなたが転居した日から3年を経過する年の12月31日までに売却を完了させる必要があります。
例えば2021年4月に転居した場合、2024年12月31日が売却期限です。この期限を1日でも過ぎると控除は受けられません。
建物を取り壊した場合は更に条件が厳しくなります。取り壊し日から1年以内に売買契約を締結し、かつ住まなくなってから3年後の12月31日までに売却を完了させます。取り壊し後の土地を駐車場や資材置き場として貸し出すと、その時点で適用対象外となります。
売却相手に関する制限
あなたの配偶者、直系血族(親・子・孫)、生計を一にする親族への売却では控除を受けられません。兄弟姉妹や親戚でも、同居して生活費を共有している場合は対象外です。
同族会社への売却も制限されます。あなたやあなたの親族が株式の50%超を保有する会社への売却では適用されません。形式的に第三者を介在させても、実質的な売買相手が親族なら控除は認められません。
税務署は売買契約書の内容だけでなく、代金の流れや売却後の使用状況も確認します。市場価格から大きく乖離した価格での売却も調査対象となることがあります。
特殊なケースでの適用条件
3000万円控除は基本的な居住用財産以外にも、相続した空き家や賃貸転用物件など特殊なケースでも適用できる場合があります。ただし、それぞれに厳格な条件が設定されており、適用を受けるには詳細な要件を満たす必要があります。
空き家を売却する場合
あなたが相続した実家が空き家になっているなら、「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除」を適用できる可能性があります。相続開始直前まで被相続人が1人で住んでいた家屋で、1981年5月31日以前に建築された物件が対象です。
相続から3年を経過する年の12月31日までに売却し、売却代金が1億円以下であることが条件となります。耐震リフォームを実施するか、建物を解体して更地として売却する必要があり、相続から売却まで事業用・貸付用・居住用として使用していないことも要件です。
適用を受けるには市区町村から「被相続人居住用家屋等確認書」を取得し、確定申告時に添付します。2023年度税制改正により、売却前に耐震リフォームや解体を行わなくても、買主が実施することを契約書に明記すれば適用可能になりました。
賃貸物件として貸していた場合
あなたが以前住んでいた自宅を賃貸に出していた場合、3000万円控除の適用は原則として受けられません。居住用財産とは「生活の本拠」として使用していた家屋を指し、賃貸収入を得る目的の物件は対象外となるからです。
ただし、転勤等でやむを得ず一時的に賃貸していた場合で、居住をやめてから3年目の12月31日までに売却すれば適用可能です。例えば、2021年3月に転居し賃貸開始した物件は、2024年12月31日までに売却すれば控除を受けられます。
重要なのは「居住用」として使用していた実態があることです。単身赴任中に家族が住み続けていた場合や、転勤終了後に再び居住する予定があった場合は、賃貸期間があっても適用が認められやすくなります。税務署は電気・ガス・水道の使用実績や住民票の移動履歴を確認します。
建物を取り壊した後の土地売却
あなたが住んでいた家を取り壊して土地だけを売却する場合でも、条件を満たせば3000万円控除を適用できます。
取り壊した日から1年以内に売買契約を締結し、かつ住まなくなった日から3年目の12月31日までに売却することが必要です。
例えば、2022年4月に転居し、2023年6月に建物を解体した場合、2024年6月までに売買契約を結び、2025年12月31日までに引き渡しを完了させます。この期間中、土地を駐車場や資材置き場として貸し付けていると控除対象外となります。
建物の一部だけを取り壊した場合や、居住部分と庭の面積比率が極端に異なる場合は適用が制限される可能性があります。
庭や駐車場部分が居住用建物の敷地として通常必要と認められる範囲を超える場合、その部分は控除対象から除外されます。
共有名義・店舗併用住宅の場合
夫婦共有名義の不動産を売却する場合、それぞれの持分に応じて最大3000万円ずつ控除を受けられます。
例えば、夫婦で2分の1ずつ所有し、譲渡所得が5000万円の場合、夫2500万円、妻2500万円に分けて、それぞれ控除を適用できるため、税金はかかりません。
店舗併用住宅では、居住部分の床面積が全体の90%以上なら建物全体が居住用とみなされ、全額に控除が適用されます。
90%未満の場合は居住部分のみが対象となり、按分計算が必要です。1階60㎡が店舗、2階40㎡が住居の物件なら、居住割合40%分のみに控除が適用されます。
確定申告は共有者それぞれが行い、建物の登記事項証明書や売買契約書を添付します。離婚に伴う財産分与では、分与時点では譲渡所得税は発生しませんが、分与を受けた側が売却する際に3000万円控除を適用できる場合があります。
相続した不動産への特例適用
相続により取得した不動産を売却する際も、一定の要件を満たせば3000万円特別控除を受けることができます。被相続人が居住していた空き家や老人ホーム入所中の物件など、特殊なケースでの適用条件を確認しましょう。
相続空き家の3000万円控除
あなたが相続した実家が空き家になっている場合、「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除」を活用できます。被相続人が相続開始直前まで1人で住んでいた家屋で、昭和56年5月31日以前に建築された物件が対象です。
相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すれば、最大3000万円の控除を受けられます。マンションなどの区分所有建物は対象外で、一戸建てに限定されます。
建物を取り壊して更地として売却する場合も控除の対象となります。ただし、相続から売却までの間、事業用や貸付用として使用していないことが条件です。令和9年12月31日までの時限措置のため、早めの売却活動を開始することが重要です。
被相続人が老人ホームに入所していた場合
あなたの親が老人ホームに入所していた空き家を相続した場合でも、条件次第で3000万円控除を受けられます。
被相続人が要介護認定を受けて老人ホームに入所していた事実があれば、入所直前まで居住していた家屋として認められます。
老人ホームへの入所が「やむを得ない事情」と判断されるには、介護保険法に規定する要介護認定または要支援認定を受けていることが必要です。入所後も家屋が他人に貸し出されていないことも重要な要件です。
相続開始直前に被相続人が老人ホームに入所していても、それ以前の居住実績が認められれば特例の適用対象となります。
税務署への申請時には、老人ホームの入所契約書や要介護認定通知書などの証明書類を準備することで、スムーズな手続きが可能です。
他の税制優遇との併用について
3000万円控除を適用する際、他の税制優遇との併用可否を理解することで、あなたの節税効果を最大化できます。併用可能な制度と不可能な制度を把握し、最適な選択をすることが重要です。
10年超所有軽減税率との併用
あなたが10年を超えて所有した自宅を売却する場合、3000万円控除と10年超所有軽減税率の特例を同時に適用できます。通常の長期譲渡所得税率は約20.315%ですが、この特例により14.21%まで軽減されます。
例えば、あなたが15年間住んだ自宅を8000万円で売却し、譲渡所得が5000万円発生したとします。まず3000万円控除を適用し、残りの2000万円に対して14.21%の軽減税率が適用されます。結果として、税額は約284万円となり、通常の税率なら約406万円かかるところを122万円も節税できます。
この併用により、売却益が大きい物件でも税負担を大幅に軽減できるため、長期保有物件の売却時には必ず検討すべき選択肢です。
住宅ローン控除との併用不可
3000万円控除と住宅ローン控除は併用できません。あなたが新居を購入する際、どちらの控除を選ぶかで将来の税負担が大きく変わります。
住宅ローン控除は、新居の居住開始年とその前後2年間(計5年間)の制限があります。この期間内に旧居で3000万円控除を使用すると、新居での住宅ローン控除が受けられなくなります。
例えば、住宅ローン控除で10年間で最大400万円の控除を受けられる場合と、3000万円控除で500万円の節税効果がある場合、後者を選ぶ方が有利です。
売却益の金額、新居のローン残高、あなたの年収を考慮して、どちらがより大きな節税効果をもたらすか計算することが大切です。
その他の特例との関係
特定の居住用財産の買換え特例は、3000万円控除と併用できません。この買換え特例は課税の繰延べ措置であり、将来の売却時まで税金を先送りする制度です。
過去3年間に3000万円控除や買換え特例を使用していると、新たな適用は制限されます。つまり、あなたは3年に1度のサイクルでしか利用できません。
固定資産の交換特例や収用等の特別控除を受けた場合も、3000万円控除は適用外となります。複数の不動産を所有している場合、どの物件でどの特例を使うか、計画的に選択することで節税効果を最大化できます。
確定申告の手続きと必要書類
3000万円控除を受けるためには、売却翌年の確定申告が必須です。控除により税額がゼロになる場合でも、申告しなければ控除は適用されません。
申告時期と手続き方法
居住用財産を売却した翌年の2月16日から3月15日までに確定申告を行います。土日祝日の関係で期限が前後することがあるため、国税庁のウェブサイトで確認してください。
譲渡所得は給与所得とは別の分離課税として申告します。確定申告書B様式と第三表(分離課税用)を使用し、譲渡所得の内訳書を添付します。
e-Taxを利用すればオンラインで申告できます。特例適用欄で「居住用財産の3000万円特別控除」を選択し、控除額を入力します。操作に不安がある場合は、税務署の相談窓口を利用できます。
申告期限を過ぎると控除は受けられません。書類の準備に時間がかかることもあるため、1月中には準備を始めることをおすすめします。
必要書類一覧
確定申告に必要な書類は以下のとおりです:
書類名 | 入手先 | 備考 |
---|---|---|
確定申告書B様式 | 税務署・国税庁HP | 収入金額等欄に譲渡金額を記入 |
申告書第三表(分離課税用) | 税務署・国税庁HP | 特例適用欄に控除を記載 |
譲渡所得の内訳書 | 税務署・国税庁HP | 取得費や売却価格の明細 |
売買契約書の写し | 本人保管 | 売却時と購入時の両方 |
登記事項証明書 | 法務局 | 不動産の所在地確認用 |
戸籍の附票 | 役所 | 居住期間の証明 |
本人確認書類 | - | マイナンバーカード等 |
住民票の住所と売却不動産の所在地が異なる場合、戸籍の附票で居住していた事実を証明します。取得費が不明な場合は、売却価格の5%を概算取得費として計算できます。
譲渡損失が出た場合の特例制度
不動産売却で譲渡損失が発生したときは、3000万円控除とは異なる特例制度を利用できます。売却価格が取得費と譲渡費用の合計を下回った場合、その差額を他の所得と相殺して税負担を軽減できる仕組みです。
譲渡損失の損益通算特例を適用すると、給与所得や事業所得から譲渡損失分を差し引いて所得税を計算します。
例えば、5000万円で購入した自宅を3500万円で売却し1500万円の損失が出た場合、年収800万円の給与所得から1500万円を差し引き、その年の課税所得をマイナス700万円として申告できます。
損益通算で控除しきれない損失は、翌年から3年間繰り越して控除できます。上記の例では、初年度で800万円を控除し、残り700万円を翌年の所得から控除します。この繰越控除により、最大4年間にわたって税負担を軽減できるため、大きな節税効果が期待できます。
まとめ
不動産売却時の3000万円特別控除は、あなたの税負担を大幅に軽減する強力な制度です。適用要件を満たせば、売却益から最大3000万円まで控除でき、多くの場合で譲渡所得税がゼロになる可能性があります。
ただし、この特例を最大限活用するには、売却タイミングの見極めと他の税制優遇との兼ね合いを慎重に検討する必要があります。特に住宅ローン控除との選択は、あなたの将来の住宅計画も含めて総合的に判断することが重要です。
確定申告の期限を守り、必要書類を漏れなく準備することで、確実に特例の恩恵を受けられます。不動産売却を検討している場合は、早めに税理士や不動産専門家に相談し、あなたの状況に最適な節税戦略を立てることをおすすめします。