不動産売却による確定申告の必要書類はなに?ケース別に見る準備のポイント

不動産を売却したあなたは、翌年3月の確定申告期限が近づくにつれて、書類の山を前に途方に暮れているかもしれません。売買契約書、登記簿謄本、取得時の資料など、何が必要で何が不要なのか判断に迷うのは当然です。

実は不動産売却の確定申告で必要な書類は、売却益の有無や特例適用の条件によって大きく変わります。

3,000万円特別控除を使うのか、買い換え特例を適用するのか、それとも単純に譲渡所得を申告するだけなのか。あなたの状況に応じて準備すべき書類は異なり、一つでも不足すれば申告が完了しません。

不動産売却後の確定申告で必要な基本書類

不動産売却後の確定申告には、税務署への提出が必須となる基本書類があります。あなたの売却状況に関わらず、これらの書類は確定申告の土台となります。

確定申告書類(第一表・第二表・第三表)

あなたが不動産を売却した年の確定申告では、通常の第一表・第二表に加えて第三表(分離課税用)の提出が必要です。

  • 第一表には氏名・住所・マイナンバーなどの基本情報と、給与所得や事業所得などの総合課税の所得を記入します。
  • 第二表では所得の内訳や所得控除の詳細を記載し、社会保険料控除や生命保険料控除などを正確に入力します。
  • 第三表は不動産売却による譲渡所得専用の書類で、分離課税の対象となる所得を記載します。

売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた譲渡所得金額を計算し、短期譲渡(所有期間5年以下)なら39.63%、長期譲渡(所有期間5年超)なら20.315%の税率で税額を算出します。

e-Taxを利用すれば自宅から24時間提出可能で、書類の郵送や税務署への訪問が不要になります。国税庁の確定申告書等作成コーナーでは、画面の案内に従って入力すれば自動的に税額が計算されます。

譲渡所得の内訳書

譲渡所得の内訳書は、不動産売却の詳細を税務署に報告する重要書類です。売却した不動産の所在地・地番・地積・建物の構造や床面積などの物件情報を正確に記載します。取得年月日と売却年月日から所有期間を算出し、短期譲渡か長期譲渡かを判定する根拠となります。

売却価格の欄には売買契約書に記載された金額をそのまま転記し、固定資産税の精算金がある場合は売却価格に含めます。

取得費は購入時の価格に仲介手数料や登記費用を加算した金額で、購入時の領収書がない場合は売却価格の5%を概算取得費として計上できます。

譲渡費用には仲介手数料・印紙税・測量費・建物の取壊し費用などを記載し、各費用の領収書を添付します。

3,000万円特別控除を適用する場合は、内訳書の特例適用欄にチェックを入れ、適用要件を満たしていることを明記します。

売買契約書と取得費・譲渡費用の証明書類

売買契約書のコピーは譲渡所得計算の根拠となる最重要書類で、売却時と購入時の両方の契約書が必要です。

契約書には物件の所在地・面積・売買金額・契約日・売主と買主の署名押印が記載されており、これらの情報が内訳書の記載内容と一致することを確認します。

取得費の証明には、購入時の売買契約書に加えて仲介手数料の領収書・登記費用の領収書・不動産取得税の納税通知書を添付します。リフォームや増改築を行った場合は、工事請負契約書と領収書で取得費への加算を証明します。

譲渡費用の証明書類として、売却時の仲介手数料領収書(売却価格の3%+6万円が上限)・収入印紙の領収書・測量費の請求書と領収書・建物解体費の明細書を準備します。

各領収書には宛名・日付・金額・但し書きが明記されていることを確認し、不備がある場合は発行元に再発行を依頼します。

確定申告が必要なケースと不要なケース

不動産売却後の確定申告の要否は、譲渡所得の有無と特例適用の条件によって決まります。売却益が発生した場合だけでなく、損失が出た場合や特別控除を受ける場合も申告が必要となるケースがあります。

譲渡所得がある場合

不動産を売却して利益が出たら確定申告は必須です。譲渡所得は「売却価格 – (取得費 + 譲渡費用)」で計算され、1円でもプラスになれば申告対象となります。

例えば、3,000万円で購入したマンションを3,500万円で売却し、仲介手数料等の諸費用が150万円だった場合、350万円の譲渡所得が発生します。この譲渡所得には所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%の合計20.315%が課税されます。

所有期間が5年以下の短期譲渡所得の場合、税率は39.63%まで上昇します。売却した翌年の2月16日から3月15日までに確定申告書第三表(分離課税用)を提出し、譲渡所得の内訳書に取得費や譲渡費用の領収書コピーを添付します。

申告を怠ると無申告加算税や延滞税が課されるため、売却益が出た年は必ず申告手続きを行います。

譲渡損失がある場合

不動産売却で損失が出ても、特定の条件を満たせば確定申告によって税金の還付を受けられます。マイホームの売却損失は、給与所得や事業所得と損益通算でき、最大3年間の繰越控除が可能です。

5年以上所有した自宅を2,000万円で購入し1,500万円で売却した場合、500万円の譲渡損失が発生します。年収600万円の会社員なら、この損失を給与所得から差し引くことで所得税と住民税が軽減されます。

損益通算を受けるには「所有期間5年超」「住宅ローン残高がある」「新たに住宅ローンを組んで買い換える」などの要件があります。

確定申告書第一表・第二表に加えて、居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例に関する明細書を提出します。

譲渡損失の繰越控除を受けると、翌年以降も確定申告が必要となるため、3年間の継続的な申告手続きを忘れずに行います。

特例適用を希望する場合

3,000万円特別控除や買い換え特例を利用する場合、譲渡所得がゼロになっても確定申告は必須です。特例の適用を受けるための申告を行わなければ、控除や税率軽減のメリットを受けられません。

居住用財産の3,000万円特別控除では、マイホームを売却して2,500万円の利益が出ても、特例適用により課税所得はゼロになります。ただし自動的に適用されるわけではなく、確定申告で特例の適用を申請する必要があります。

買い換え特例を利用する場合、売却物件の所有期間10年超、居住期間10年以上、買い換え物件の床面積50㎡以上などの要件を満たす必要があります。確定申告時には、譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)と戸籍の附票の写しを提出します。

配偶者居住権の売却や相続した空き家の売却でも、それぞれ特別控除の適用を受けるには確定申告での申請が必要となります。

特例適用時に追加で必要な書類

不動産売却で特例を利用する場合、基本書類に加えて特例ごとの追加書類が必要です。適用する特例によって求められる書類が異なるため、事前に必要書類を確認して準備を進めてください。

3,000万円特別控除の適用書類

3,000万円特別控除を受けるには、住民票の除票と譲渡所得の内訳書が必須です。住民票の除票は譲渡日から2か月経過後に取得したものを提出してください。売却物件と購入物件両方の売買契約書の写しも添付します。

仲介手数料の領収書は譲渡費用の証明として重要な書類です。不動産会社から発行された領収書の原本を保管し、コピーを提出用に準備してください。

印紙税の領収書も同様に譲渡費用として計上できるため、売買契約書に貼付した収入印紙の金額を証明する書類を用意します。

譲渡所得の内訳書には取引の詳細を正確に記載します。売却価格、取得費、譲渡費用の各項目を漏れなく記入し、計算ミスがないか確認してください。

マイホームの売却であることを証明するため、売却前の居住実態を示す公共料金の領収書などを補足資料として準備しておくと申告がスムーズに進みます。

軽減税率・買換え特例の適用書類

軽減税率の特例を適用するには、所有期間10年超の証明書類が必要です。売却物件の登記事項証明書で取得日を確認し、10年を超えていることを証明してください。売却した年の1月1日時点で所有期間を判定するため、計算方法に注意が必要です。

買換え特例では売却物件と購入物件両方の売買契約書を提出します。購入物件の売買契約書には、売却代金を充当して購入したことを明記してください。購入物件の登記事項証明書も添付し、確実に買換えを実行したことを証明します。

居住用財産の買換え特例申告書は税務署指定の様式を使用します。売却物件の所在地、売却価格、購入物件の情報を正確に記載してください。

買換え資産の取得期限は売却した年の翌年12月31日までです。期限内に購入を完了させ、居住を開始した日付を明確に記録しておきます。

相続不動産売却時の特例適用書類

相続した不動産を売却する場合、被相続人の戸籍謄本が必要です。出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得し、相続関係を明確にしてください。相続人が複数いる場合は全員分の戸籍謄本も準備します。

相続関係説明図は相続人全員の関係性を図式化した書類です。被相続人を中心に配偶者、子、孫などの続柄と氏名を記載し、誰が相続人となるか一目で分かるように作成してください。遺産分割協議書がある場合は、実印を押印した原本のコピーを添付します。

登記簿謄本で相続登記が完了していることを証明します。相続登記から売却までの期間が3年10か月以内であれば、取得費加算の特例を適用できます。

売買契約書の写しと併せて、相続税の申告書控えも提出してください。相続税の納税証明書があれば、実際に相続税を納付したことを証明できるため、特例適用の審査が円滑に進みます。

確定申告書の作成手順と提出方法

不動産売却後の確定申告書作成は4つのステップで完了します。国税庁の確定申告書等作成コーナーを活用すれば、複雑な計算も自動化されて初心者でも正確な書類作成が可能です。

必要書類の準備から提出までの流れ

売買契約書のコピーを手元に置いて、パソコンで国税庁の確定申告書等作成コーナーにアクセスします。最初に譲渡所得の内訳書から入力を開始します。

売却価格2,500万円、取得費1,800万円、譲渡費用100万円といった具体的な金額を入力すると、譲渡所得600万円が自動計算されます。

確定申告書第三表(分離課税用)に進んで、計算された譲渡所得を転記します。給与所得者なら源泉徴収票の数値も第一表に入力します。すべての入力が完了したらe-Taxで電子申告するか、印刷して税務署へ持参・郵送します。

e-Tax利用時はマイナンバーカードとICカードリーダーを準備します。スマートフォンのマイナポータルアプリでも代用できます。

税務署への直接提出なら平日8:30〜17:00の開庁時間内に訪問します。郵送の場合は簡易書留で送付して、控えの返送用封筒と切手を同封します。

申告期限は売却した翌年の2月16日〜3月15日です。期限を過ぎると無申告加算税15%〜20%が課されるため、余裕を持った準備が大切です。

自分で行う場合と税理士に依頼する場合

自分で申告すれば費用ゼロで完結できます。国税庁のオンラインツールの指示に従って入力すれば、2〜3時間で書類作成が完了。

単純な売却なら十分対応可能です。ただし3,000万円特別控除や買換え特例の適用判定で迷ったら、20万円の追徴課税リスクを考えて専門家への相談が賢明です。

税理士報酬は譲渡所得の金額によって5万円〜20万円程度。複雑な相続不動産の売却や、取得費が不明な場合は概算取得費(売却価格の5%)を使うか実額計算するかで税額が大きく変わるため、税理士のアドバイスが節税につながります。

あなたが会計知識に自信があって時間的余裕もあるなら自分で挑戦してみてください。初めての不動産売却で不安を感じるなら、税理士への依頼で安心を買うのも選択肢です。

税理士は修正申告のリスクも軽減してくれるため、売却益が1,000万円を超える高額取引では特に検討価値があります。無料相談を実施している税理士事務所も多いため、まず相談してから依頼するか決めるのも一つの方法です。

確定申告を怠った場合のリスクと注意点

不動産売却で利益を得たあなたが確定申告を忘れた3月16日の朝、税務署からの封書が届きます。無申告加算税として本来の税額に15%上乗せされた請求書を見て、あなたは後悔することになります。

税務署による調査と追徴課税

税務署は不動産取引のデータを法務局から入手しています。あなたの売却情報は登記変更時点で把握されており、申告漏れは約1年後に発覚します。調査が入ると過去5年分の所得を調べられ、他の申告漏れも同時に指摘される可能性があります。

追徴課税の内訳:

ペナルティの種類 税率 適用条件
無申告加算税 15-20% 期限後申告・無申告
延滞税 年7.3-14.6% 納付遅延日数に応じて
重加算税 35-40% 意図的な隠蔽・仮装

金融機関との取引への影響

あなたが次の不動産投資で銀行融資を申請する際、過去3年分の確定申告書の提出を求められます。申告していない年度があると融資審査で不利になり、金利優遇を受けられません。事業者の場合は信用情報に傷がつき、今後の資金調達に支障をきたします。

特例適用の機会損失

3,000万円特別控除を受けられたはずのあなたが、申告期限を過ぎてから気づいても手遅れです。期限後申告では特例の適用を受けられず、本来払わなくてよかった税金を納めることになります。買換え特例も同様に、申告期限内でなければ適用されません。

まとめ

不動産売却後の確定申告は複雑に思えるかもしれませんが、必要書類を体系的に整理すれば決して難しくありません。あなたの売却状況に応じて準備する書類は異なりますが、早めの準備と正確な情報収集が成功の鍵となります。

特例の適用条件や必要書類について不明な点があれば、税務署の無料相談窓口や税理士への相談を検討してください。専門家のアドバイスを受けることで、思わぬ節税効果を得られる場合もあります。

確定申告の期限まで時間があると思っていても、書類の準備には予想以上の時間がかかることがあります。今すぐ必要書類のチェックリストを作成し、一つずつ確実に揃えていきましょう。適切な申告を行うことで、将来的な税務トラブルを回避し、あなたの資産を守ることができます。

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